大会史上初めてデンマークで開幕した第109回ツール・ド・フランス2022は、個人総合優勝3連覇を目指したタデイ・ポガチャル選手(UEAチーム・エミレーツ)は惜しくも個人総合2位でした。優勝は叶いませんでしたが、最後まで果敢にアタックを続け、見事に戦い抜いた3週間でした。個人総合優勝は、デンマーク出身のヨナス・ヴィンゲゴー選手(ユンボ・ヴィスマ)で、自身初優勝を飾りました。

個人総合優勝3連覇は逃しましたが、3年連続となるヤングライダー賞を獲得し、チームとしても、選手としても大きく前進した今年のツールだったと思います。

第1ステージの個人TTで始まった今大会。ポガチャル選手は上々の滑り出しを見せ3位でゴールし、さっそくマイヨブランを勝ち取りました。そして序盤のハイライトとなった第5ステージは、11ヶ所、合計19.4kmの石畳(パヴェ)セクターが含まれた難関ステージでした。多くの選手が次々と落車やメカトラブルに見舞われる中、ポガチャル選手は自力でメイン集団の前方をキープし、ヤスパー・ストゥイヴェン選手(トレック・セガフレード)のアタックに反応してメイン集団を飛び出しました。結果は区間7位、個人総合は4位となりましたが、難しいステージでライバルを引き離すことに成功しました。
続く第6ステージでは4級と3級山岳を立て続けに越えた最後のゴールスプリントで、ポガチャル選手がライバルを一蹴し区間優勝と共にマイヨジョーヌを獲得しました。序盤からかなりのハイペースでレースが展開しましたが、残り350mから加速したプリモシュ・ログリッチ選手(ユンボ・ヴィスマ)に食らいついて爆発的な加速で見事にゴールしました。

第6ステージ
第6ステージ
第6ステージ

さらに最大勾配24%、未舗装路を含む1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユを目指す激坂ステージだった第7ステージでも区間優勝を獲得。ポガチャル選手の家族やガールフレンドが会場で見守る中、ステージ2連勝を掴み取りました。その後もチームメンバーに守られながらメイン集団で上位をキープし、マイヨジョーヌを守って第1週を終えました。

第7ステージ
第7ステージ
休息日に髪を切ってさっぱりしたポガチャル選手の姿も

続く第2週は、アルプスステージ3連戦からスタート。PCR検査の陽性でジョージ・ベネット選手(UAEチーム・エミレーツ)を失うも、第10ステージではマイヨジョーヌをキープ。しかし続く第11ステージでユンボ・ヴィスマによるチームによる波状攻撃に耐えきれませんでした。1級山岳テレグラフ峠頂上で猛烈なペースアップと共に度重なるアタックに苦しめられポガチャル選手はマイヨジョーヌを失うことになります。その後のステージでもリーダージャージを取り戻すために果敢にアタックや、ゴール前スプリントにチャレンジするも、ヴィンゲゴー選手がぴったりと張り付き、大きくタイム差を縮めることができずにレースが続きました。

第11ステージ
第14ステージでは、マルク・ソレル選手(UAEチーム・エミレーツ)が逃げに乗り区間4位でゴールする場面も

レースの終盤3週目でも、ポガチャル選手は「登りという登りでアタックする」というインタビュー通りに諦めずに走り続けます。そして第17ステージではヴィンゲゴー選手との一騎討ちの末にステージ3勝目を獲得しました。このレースでは、サンゴーダンからペラギュードまでの山岳129.7kmを引き続けたブランドン・マクナルティ選手(UAEチーム・エミレーツ)も敢闘賞を獲得しています。

これまでにUEAチーム・エミレーツは、マルク・ソレル選手が不調により、ラファウ・マイカ選手がメカトラブルに起因する怪我により脱落しており、チームはポガチャル選手を含むたった4名となっていました。渾身の力で走り続けるポガチャル選手に対し、ユンボ・ヴィスマの攻撃は止むことはありません。第18ステージでは更なるリードを許すことになります。最終峠を前にしたスパンデル峠が始まるとポガチャル選手はいち早くアタックを仕掛けました。登りで何度も何度もアタックを仕掛けますが、ヴィンゲゴー選手を引き離すことは叶わず、下りでもギリギリの攻防が続きました。途中、ポガチャル選手はオーバーランによりタイヤが滑り落車。その様子を見て、ヴィンゲゴー選手がポガチャル選手を待つ一幕もありました。しかし難関山岳オタカムに突入するとワウト・ファンアールト選手(ユンボ・ヴィスマ)が強烈にヴィンゲゴー選手を引き初め、最終的にはマイヨジョーヌに1分ほどのリードを許してしまいました。

第17ステージ
第18ステージ

ここまで苦しい戦いが続き、選手も憔悴しているような雰囲気かと思いましたが第20ステージ、レースの大詰めの個人TTは驚愕のレース展開でした。TTスペシャリストのフィリッポ・ガンナ選手(イネオス・グレナディアーズ)が快走。平均時速50km/hを超え48分41秒のタイムをマークします。その後もガンナ選手のタイムに届く選手はありませんでした。しかし後半、個人総合トップを争う、ヴィンゲゴー選手とポガチャル選手、ゲラント・トーマス選手(イネオス・グレナディアーズ)とマイヨヴェールのファンアールト選手が別次元の走りを見せました。ファンアールト選手がガンナ選手の記録を次々と塗り替え、42秒を上回る47分59秒でゴールするとトーマス選手もガンナ選手のタイムを上回りました。トーマス選手に続きスタートしたポガチャル選手も第1計測は暫定トップタイムを記録。最終的にトーマス選手のタイムを上回ります。しかし、最後にスタートしたヴィンゲゴー選手がマイヨジョーヌマジックを発揮し、第1計測、第2計測とファンアールト選手の記録を塗り替える走りで最終的には区間2位となりました。

第20ステージ

最終ステージでは、シャンゼリゼ周回コースでこれまでのアタック合戦を彷彿とさせるパレードラン。レースが始まると最後までポガチャル選手はアタックを辞めず、観客を魅了するレースで締めくくりました。ポガチャル選手は3連覇を果たすことはできませんでしたが、個人総合2位、ヤングライダー賞を獲得しての見事な走りを見せました。自身も今回のレースを「来年に向けての更なるモチベーション」としており、前向きで笑顔の似合うポガチャル選手は健在です。また今年はレースでの活躍以外にも、がん研究に対する基金を設立するなど積極的に活動の幅を広げています。今後のレースでは、ブエルタ・ア・エスパーニャへの出場も噂されており、ユンボ・ヴィスマへのリベンジや、ログリッチ選手との対決など、ファンをさらに楽しませてくれるのは間違いありません。

ツール期間中は皆さまの応援をいただき、誠にありがとうございました。