波乱のレース展開の後、2020年9月20日に閉幕したツール・ド・フランス2020。新型コロナウイルス感染拡大の影響により約2ヶ月遅れで開催され、例年とは異なる雰囲気が流れる中、勝負の面でも歴史に残る快挙となった。V3-RSを操り、21歳のエースであるタデイ・ポガチャル選手が総合優勝を果たした。第20ステージで獲得した山岳賞、ヤングライダー賞に加え、ポガチャル選手は最終的に3枚の特別賞ジャージを獲得した。

ポガチャル選手は、2017年母国スロベニアのコンチネンタルチームでプロデビュー。同年6月に開催されたツール・ド・スロベニアでは19歳ながら個人総合5位、ヤングライダー賞1位を獲得した。

翌2018年も母国のコンチネンタルチームに所属。春先から好調をキープし、迎えたアマチュア版(U23)ツール・ド・フランスと称される「ツール・ド・ラヴニール」において個人総合優勝を成し遂げる。ちなみに前年2017年は2019年ツール・ド・フランス覇者であるエガン・ベルナルが勝利しており、ツール・ド・ラヴニールでの成績は、かつてはプロの登竜門と言われたが、現在はトッププロと遜色ない実力を示すレースでもある。ちなみに2018年10月に栃木県宇都宮市で開催されたアジア最高峰のワンデーレース「ジャパンカップ」で11位の成績を残したことは、後になって知った方も多いはず。

2019年はワールドツアーチームであるUAEチームエミレーツに鳴り物入りで加入。2月のポルトガルでのステージレースでいきなり総合優勝を飾り、春のワンデークラシックレースでは若干苦戦したレースが続くも、リエージュ~バストーニュ~リエージュにおいて18位で春のクラシックシーズンを締めくくる。5月はアメリカ最大のステージレース「ツール・ド・カリフォルニア」で総合優勝。すでにステージレーサーとしての才能は、翌月のスロベニア選手権個人タイムトライアル(以下TT)の優勝と共に実証されることとなる。7月のツール・ド・フランスのメンバーからは外れていたものの、自身初のグランツール(3週間規模)となるヴェルタ・エスパーニャで総合3位の成績を残し、すでにこのころからチーム内での絶対エースを若干21歳の選手が担うこととなった。

2019年シーズンを9月で終え、しっかりとオフシーズンのトレーニングを重ねて向かえた2020年、2月のスペインでのステージレースを総合優勝で飾り、引き続き好調をアピール。同月のUAEツアーでは惜しくも優勝を逃すも個人総合2位の成績を残した。

コロナの影響で中断されたプロレースは6月から順次各国独自のルールのもと再開され、スロベニア選手権個人TT優勝、ロード2位と安定した成績を残し、コロナの影響をもろともせずシーズン中盤を迎えた。

ツール・ド・フランス前哨戦とも呼ばれるクリテリウム・ドーフィネで個人総合4位。

下馬評では優勝候補の一角に数えられるも、山岳の難易度が高い2020年ツール・ド・フランスでは同国のライバルであるプリモッシュ・ログリッチェとの直接対決にはならないだろうとの見方であった。

例年よりも2か月遅れの開催となったツール・ド・フランス。予想通り前半からコロンビア出身のクライマーが総合上位に名を連ね、そこにスロベニアの2選手が加わるといった山岳における決戦の様相を呈した前半戦。フランス特有の丘陵地を走るステージで、横風により集団が分裂。チームメイトの献身的なサポートで後れを1分程度でとどめた。その時点では総合優勝候補から一歩後退した感があるも、その後のステージでは攻めに転じ、ステージ優勝を2回含める活躍で1位のログリッチェとのタイム差を57秒まで縮めて最終決戦となる個人TTを迎えた。

過去のツールでは顔見世の要素が高いプロローグとして個人TT、レース中盤にチームTT、最終日前々日に個人TTという流れがあり、TTの能力が高い選手がアドバンテージを得られるコース設定であった。しかしながら開催国フランス人選手の活躍が見られなくなり、コースのレイアウトもTTは短く、山岳を盛り込んだ近年のツールでは、番狂わせが起きにくいものとなっていた。

結果的に2分近い差をつけての逆転総合優勝を成し遂げたポガチャル率いるUAEチームエミレーツの面々。こうしてツール・ド・フランスを制覇したことは、チームとしての組織の素晴らしさは言うまでもなく、選手たちを最大限バックアップするスポンサーや家族の存在があってのもの。

パリの凱旋門をバックに黄色にペイントされたコルナゴロードバイクを見たことは、これまで一度もない。創設以来初となる快挙を成し遂げたポガチャルに感動をありがとうと伝えたい。

ポガチャルが使用するV3-RSは山岳ではリムブレーキ仕様、平地ではDISCブレーキ仕様と使い分けている。高速で展開されるレースには制動力の高いDISCブレーキを選択。重量規定ぎりぎりにロードバイクを軽量化させるにはリムブレーキを選択している。ハイエンドモデルでブレーキの仕様を選択可能なメーカーは数少なく、レースで勝つためだけに情熱を費やしてきたエルネスト・コルナゴがついに頂点を極めた歴史的ロードバイクがV3-RSであったことは後世に受け継がれるはずだ。

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